大槌刺し子と10年という時間

10年前。僕はまだ刺し子の存在意義について自問自答を繰り返していました。刺し子は社会から必要とされているのか。それは今のように「日本の刺し子を残したい」というふんわりして前向きな自問自答ではありませんでした。冴えない売り上げと、経費いう湯水のように出ていく数字との間で視線を泳がせながら、誰かの何かを責めたい気持ちでいっぱいの苦しい日々でした。とても自己中心的で驕った考えだったんです。自分の関わる会社の売り上げが上がらなければ、それは社会から刺し子が必要とされていないだなんて、能力&努力不足を棚上げにして、それでも従業員さんの生活と、自分の家族の日々を背負って足掻いていました。そんな時に出会ったのが、「大槌復興刺し子プロジェクト」です。あれからの10年、当時は想像すらできなかった変化を、僕は経験し続けました。それでも、全く違う所から刺し子と関わっているとしても、大槌の刺し子をしている皆様とご縁を頂けているのは、本当に幸せなことだと思っています。

魚だけではなく釣り竿を届ける

大槌復興刺し子プロジェクトの初動期に良く耳にした言葉です。

3月11日から季節が少しずつ移り変わり、支援物資はそれなりに届くようになった。(明日の飢えを凌ぐ)魚を届ける人は沢山いる。その中で今は釣り竿を届けなきゃいけないと思う。

大槌刺し子プロジェクトを立ち上げられた有志の5人の方々のビジョンはとても明確で的確でした。同年6月にプロジェクトから大量の刺し子糸のご注文を頂いて、僕と大槌復興刺し子のご縁が始まります。

運営母体として、「特定NPO法人テラ・ルネッサンス」が全面的にバックアップすることになり、改めて「コミュニティビジネス」という理念が加わります。コミュニティビジネスとは、”市民が主体となって、地域が抱える課題をビジネスの手法により解決する事業”のことで、「釣り竿」を使って如何に経済循環を回していけるかが目標になりました。現地での法人化です。

僕は、2011年6月〜2012年3月にかけて、沢山の経験をさせて頂きました。楽しいものだけではなく、中には苦いものも勿論ありました。今考えると、若さというか未熟さというか、無礼をはたらいてしまったことばかりでした。少しだけ言い訳をすると、「必死だった」んです。現地に入り、事務所に寝泊まりで、何か力になれないか……と。

今考えると……という話なのですが、当時、意見の食い違いがあったのは、釣り竿を使って何をするか……という違いだったと思うのです。「釣り竿を使って釣り方を教えること」を重視する方々と、「釣り竿を使って、釣りそのものを教えること」を重視する方々と。どちらも正解です。理想は両輪で、釣り方も、釣りそのものもお伝えすることです。でも、なぜ意見が食い違うのかが当時の僕にはわかりませんでした。皆さん必死で、真剣で、思いがあるのはお互いに重々承知の事実でしたので。

大槌刺し子という「刺し子」

10年という年月の中で、大槌刺し子は、「釣り方を学ぶ中で、釣りそのものも学んできた」んだと思います。伝統的且つ保守的な見方をすると、大槌刺し子の商品の中には、「刺し子っぽくないもの」も存在しました。当時の一部の商品の針目に対して、”それは刺し子じゃなくてチェーンステッチだよ”とご指摘を頂いたこともありました。それでも、それは釣り方を学ぶ上で必要な段階で、その後、長い年月をかけて、大槌刺し子は、「大槌刺し子という刺し子」を作り上げたんだと思っています。それは僕が父親を亡くし、一度は刺し子と決別をしながらも、母親を支える形で再始動し、日々考える中で辿り着いた「運針会でお伝えする刺し子」と、とても良く似ているように思います。

お互いに、「釣り(刺し子)」とは何かを考え、そして手を動かし、なんとか今この場所に立てています。

僕が日々手を動かす刺し子の原点は家業ですが、刺し子に込める願い「日本の刺し子を残したい」という意識への転換点(原点)は、大槌刺し子で過ごした日々です。刺し子を通して「居場所」を作りたいんです。大槌で出会った、刺し子を通した居場所に僕は救われたので。

針目に宿る思いを

意識するしないに関わらず、10年も刺し子を続けていると、針目にはその人のなりが宿るようになります。上手下手とか、良い悪いとかという二元論で片付けられるような単純な話ではなく、その人の思いが宿る針目ができてきます。

ものが溢れ、何でも手に入る世の中になりましたが、大槌刺し子の刺し子は全てが手作業です。全ての作品に、その刺し子をした方の(刺し子さんの)思いがこもっています。震災復興というプロジェクトの性質から、当初から大槌刺し子の「刺し子」は、すべて大槌の刺し子さんの手によって作られており、作り手の顔が見える商品になっています。

その思いを伝えることができる針目(刺し子)こそが、10年間の大槌復興刺し子プロジェクトの結晶であり、また僕が一番残したい「刺し子の本質」なのです。

是非、大槌刺し子を知って頂き、紹介して頂き、また大槌刺し子の商品を使っていただければと思います。刺し子は使われてこそ輝く美であり、またそうすることで、刺し子が残る土台になりますので。


*3月中に、もう何点か大槌刺し子についてのブログを紹介する予定です。リンクは以下にて紹介します。もう少しお待ちくださいませ。

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