毎年恒例、刺し子な福袋に対しての思い。

今年で4年目になる「刺し子な福袋」。福袋とは銘打っていますが、目まぐるしく変化していく1年の終わりに、恵子さんと私と二人で刺し子について語る時間を頂いているような気持ちになっています。忙しいからといって心を亡くしてはいけないのは承知している。でも、忙しいとつい大切なことを蔑ろにしがち。だからこそ、区切りをつける時間でもある「刺し子な福袋」には、作る側である私達も心から感謝しているのです。

今年も12月26日の夜9時から販売を開始します。恵子さんが一人で準備するものなので、各種福袋限定数があります。この限定数は年末年始(遅くとも1月中旬まで)にお送りできる限定数とご理解ください。売り切れになってしまった場合、翌日27日のお昼くらいまでに頂いた福袋のご注文であれば、お届け時期は遅くなってしまうかもしれませんが、全てお届けできるように致します。早いもの勝ちになってしまう限定数ですが、早い段階でお手元に取って頂ける順番だとご理解頂ければ幸いです。「時間が合わずに買えなかった」というケースは避けたいというのが本音です。

尚、刺し子な福袋の販売方法の詳細については、このブログの最後をご覧ください。また「刺し子な福袋」への過去3年間の思いやお客様から頂いたレビュー等は、昨年の「刺し子な福袋の販売ページ」をご覧頂けましたら幸いです。


持続可能な営み(SDGs)

刺し子とSDGs? 関係ないのではと思われるかもしれませんが、少しだけお付き合いください。

きっと皆様も聞いたことがあるだろう造語:SDGs(持続可能な開発目標)。「Sustainable Development Goals」の略語で、国連サミットで決められた世界社会共通の目標です。17項目に分けられていて、誰もが「そりゃそうだね。大切だね。目標達成しなきゃね。」と納得できる、これからの世界を見据えて決められた目標です。

「持続可能(社会)」という言葉。英語だと、Sustainabilityという単語になるのですが、この単語があちこちに使われるようになって結構な時間が経ちました。僕が米国に移住した2014年には、既に当たり前のように使われていたと記憶しています。この「持続可能」という考え方が、環境保護の意識と重なり、結果として「刺し子」や「襤褸」が日本国外で注目を浴びているというのは、とても面白い現象だなと思います。

刺し子は、Sashikoとして、「古くなった衣類を補修する技術」として、認知度があがり、「襤褸」はBOROとして、「役に立たないものからアートを作る技術」として、人気が出てきています。両方とも間違っていないのですが、ただ、刺し子と襤褸の全体像(あるいは核となるもの)は、そこにはないように思います。なぜなら、西洋での流行の為(人気が出ている為)、どうしても技術のみに焦点があたっているのです。

「穴が空いた衣類を補修しよう」とか、「身の回りにある使っていないものでアートを楽しもう」という考え方そのものは、全ての人が賛同する素晴らしい考え方だと思います。ただ、そこに(彼らにとって外国語であるはずの刺し子や襤褸という)言葉を無理やり当てはめる時に、文化的な歪みがうまれます。

実際、刺し子は「布を補強し、また補修する”営み”」でした。

事実、襤褸は「(一見それだけでは役に立たないだろう)端切れを当て布として刺し子をした結果の美」です。

間違ってはいないのです。ただ、西洋の価値観に無理やりはめて、それを「技術」と定義してしまうことにより、正解と間違いが発生します。この二元論によって刺し子と襤褸の核となるものがブレ、また大切な二元論では語れない「アソビ」の部分が失われてしまう可能性があります。

極端な例を出しますが、西洋で「刺し子は環境保護の針仕事なのだから、新しく糸を買ってはいけない。身近にある糸を使うべきだ」という一部の流れがあります。いろいろ突っ込み所はありますが、この言葉は「環境保護」という彼らが思う正義によって、「刺し子糸という刺し子に適した糸を作ってきた文化と作り手」の存在を無視した、ある意味では暴力的な定義になってしまうのです。環境における持続可能性を追求することで、結果として文化としての持続可能性を壊してしまっている現状に対して疑問を投げかけたのが、以下の動画です(現段階では英語だけです。日本語字幕の追加頑張ります)。

「刺し子の本質とは何か」ということを日本語で議論することは別の機会として、その答えの大枠は既に決まっています。それは、「日本人が営んできた針仕事である」ということ。この事実だけは間違いないのではないでしょうか。だからこそ、日本人が知らない所で西洋の価値観と正義で文化が変化してしまうのは、一人の日本人として見過ごすことができず、結果として、今のような不毛にも思える英語での情報発信をしています。

本当の持続可能性とは「できることをする」だと思うから

環境保護とか持続可能性とか、大きな目標を掲げると、普通の人は「そりゃ私達が頑張ることじゃない」とか「世界のリーダーが頑張らなきゃ」とか、他人事に考えてしまう傾向があります。実際、「世界の貧困をなくそう」って言われた所で、「何ができるかわからない」というのが正直な反応だと思います。環境保護もそう。「私一人がプラスチックを使わないと決断した所で何が変わるのか」という気持ちもわかります。

ただ、その小さな一歩である「私”は”プラスチックを”できるだけ使わない”」という選択肢こそが、SDGsを達成する一番大切な要素だったりします。世界中に生きる一人ひとりが、自分の目の前の「できることをする」ことにより、世界は少しだけ、でも確実に良くなるのだと思っています。

刺し子に関しても一緒だと思っています。文化としての持続可能性を守りたいのであれば、その大きな流れは止められないとしても、私ができる全てのことを、刺し子に関してのできることをすることが唯一の方法だと思い、できることを探しています。

前置きが長くなりました。

この、「私ができる目の前にあること」とは、日本国内の刺し子に携わる作り手を守り、また育てることです。長年刺し子に携わってきた私達だからこそできる仕事の一つです。今回の福袋には、そんな「刺し子に長い間携わってきてくれた職人さん」を巻き込んでいます。それは何百個、何千個という長札入れを作ってきた仕立ての職人さんであり、ショルダーバッグ(サコッシュ等)の仕立て職人さんです。職人さんご本人は既に高齢で、御自身のことを職人さんとは思っていらっしゃらないような謙虚な方々なのですが、「彼らの仕事を残すこと」が、今の私達にできることの一つだと思い、こうして「長札入れ」と「ショルダーバッグ」の仕立て付きの福袋を作ることになりました。

正直な話、私も恵子さんも、「他人を巻き込むこと」にトラウマを抱えています。2013年、想像を超えた現実に打ちのめされ、何もできない状況の中で、同時に巻き込んでしまっていた沢山の方々に迷惑をかけてしまった過去があるからです。どれだけ忙しくなっても人様を雇わないのは、まだ私達にそのトラウマを乗り越える(飲み込む)覚悟がないからでもあります。

ただ、同時に、コロナ禍において「職人さんの仕事が減っている」ことも事実です。できるだけ職人さんに仕事を回したい。でも、ガッツリ巻き込んでしまうのは怖い。でも、彼女らの素晴らしい仕事は残しておきたい。そんな堂々巡りの願いと希望と思いが形になった今回の福袋だとご了承頂ければと思います。

正直、初めてのことで、もしかしたらお客様にご迷惑をおかけしてしまうかもしれません。しかしながら、これまでの6年間と同様に、どんなことが起きたとしても、誠心誠意を以て、できることを全て形にして、ご満足して頂けるような福袋にする所存です。

刺し子な福袋を通して、皆様とのご縁を頂けますこと、心より楽しみにしております。


*郵便を通して作品を作るという離れ業を、現実での可能性まで昇華させてくれたのは、「運針会の皆様にご協力頂いている各種プロジェクトと、ご協力頂いているお仕事としての刺し子」の経験を数年積み重ねてこれたからです。この場を借りて、再度、ご協力頂いている皆様には心からの感謝を申し上げます。運針会はご縁を大切にしたいという私の願いから、不定期開催で行っています。詳細はこちらからご確認下さい。

刺し子な福袋の販売について

販売は2021年12月26日(日曜日)、午後9時(21時)に、私どものウェブストアにて開始することを予定しています。ご購入頂く前に、刺し子な福袋の詳細ページ、また商品ページに記載してある「ご留意頂きたいこと」を一読頂けますよう、心よりお願い申し上げます。

上記のように開始時間を決めた背景には、アメリカと日本の時差、及びコロナ禍での僕の主夫としての仕事の都合があります。完全に僕の都合でして、12月26日の午後9時は都合が悪いぞ……という人がご購入頂けないのは、個人的にとても嫌なので、、「12月26日の夜9時の販売から翌日27日のお昼くらいまでに頂いた福袋のご注文は、全てお届けする」ということにしました。とはいえ、上限を簡単に変えられるものではないので、一度売り切れ担ってしまった場合は、お届けに数ヶ月の準備期間を頂く場合がある点、ご了承下さいませ。

*販売予定数が上限になってしまった場合は、一度「売り切れ」という表示が出る場合がございます。その場合は数時間後に再度購入を試して頂ければと思います。その際は販売ページに「お届けが2022年の2月以降になります」と記載がありますので、ご了承の上、お買い求め下さい。

結構値段が張る福袋なので、「年末年始に宣伝して準備した分が売り切れたら良いなぁ」と毎年考えて上限数を決めていて、「ま、大丈夫だろう」とは思っているのですが、心配性の僕の本性が出てきてしまい、このような形をお願いすることになりました。毎年のように、「来年のハードルが高すぎる気がする……」という心配が、「売り切れたらどうしよう」という心配よりも先にくるくらいには、頑張った福袋だと思います。

早いもの勝ちで9時に売り切れてしまうようなものではないとは思うのですが、発送の時間等を鑑みて頂くと、早いほうが安心&安全だったりします。と同時に、僕たちもできる限りのことはしたいと思っています。「刺し子を日常の中で一層楽しんでほしい」という思いが今年の恵子さんのテーマであり、また、その「日常で使える刺し子」を届けることが、僕たちの何よりもの願いであるので。

ご検討の程、どうぞ宜しくお願い致します。

二ツ谷恵子

二ツ谷淳

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